大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)9433号 判決

主文

一  被告は、別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

二  被告は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く「被告作成テスト問題」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

三  被告は、原告に対し、金二七五万円及びこれに対する昭和六三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

六  この判決の第一項ないし第三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(訴え変更前の請求の趣旨1項)

1 被告は、別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

(訴え変更後の請求の趣旨1項)

1 被告は、別紙対照表の「被告作成テスト問題」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

2 被告は、原告に対し金一三八〇万円及びこれに対する昭和六三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 訴え変更後の請求の趣旨1項ないし3項について仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(訴え変更前の請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(訴え変更に対する異議)

原告の訴えの変更は、被告が別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の問題を複製印刷したとして、同欄記載のテスト問題の印刷、販売及び頒布の差止めを請求していたのを、別紙対照表の「被告作成テスト問題」欄記載のテスト問題について、被告が印刷、販売及び頒布することの差止めを求めるよう変更するというものであるが、旧請求においては、被告は、原告作成のテスト問題に何らかの権利が認められるとしても、被告が発行した被告作成テスト問題が含まれる「四進レクチャー」は原告作成のテスト問題とは構成も性質も目的も異なり両者は同一のものではないから、被告の「四進レクチャー」が原告作成のテスト問題を印刷販売等するものではないとの攻撃防御を行ってきた。

しかしながら、新請求は、被告が作成する「四進レクチャー」の印刷販売等の差止めを求めるものであるから、旧請求とは客体が異なるばかりでなく、原告作成のテスト問題の権利性及びそれが被告の「四進レクチャー」のいかなる点にどのように及ぶかといった視点からの審理が必要となり、旧請求とは全く別の主張立証を初めから行うことになるから、旧請求と新請求との間には請求の基礎に同一性がなく、これまでの双方の主張立証を無にし著しく訴訟手続を遅滞させるものである。

したがって、本件では訴えの変更の要件を欠くものであるから、被告は訴えの変更には異議があり、また、旧請求の取下げについても同意することはできない。

(訴え変更後の請求の趣旨に対する予備的答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、各種テスト問題の作成販売及び指導等を業とする会社であり、訴外株式会社四谷大塚(組織変更前の商号「有限会社進学研究社」。以下「進学研究社」という。)が毎日曜日に主催している「四谷大塚進学教室」(以下「日曜教室」という。)で使われる「日曜教室テスト問題」を作成し、これを進学研究社に販売している。

原告は、日曜教室で使用された別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の各問題(以下「原告問題」という。なお、日曜教室で使用されたテスト問題一般を指すときは「日曜教室テスト問題」という。)を作成した。

(二) 被告は、図書及び印刷物の企画制作並びに販売等を業とする株式会社であり、別紙対照表「被告作成テスト問題」欄記載のテスト問題(以下「被告問題」という。)を含む教材を印刷し、これを「四進レクチャー」の名称で販売頒布している。

2  原告問題の編集著作物性について

(一) 本件各教科各一回分の各原告問題は、その問題の選択、配列、組合せ、順序、内容並びに程度の段階等の編集に関して、次のとおりの創作性を有するものである。すなわち、

(1) 各原告問題は、原告がその独自の創意により考案した二年間にわたるカリキュラムに基づいて、一回ごとの出題についてその範囲いわゆるジャンル分けを行ない、その題材を選択する。

(2) 各原告問題毎に右ジャンル分けをした題目を付する。

(3) 各原告問題中の個々の問題の配列には特別の工夫を凝らし、難易度の低いものから高度なものへと配列する。

(4) 同じジャンルのテスト問題について、更にその難易度に応じて三種類のクラス分けを行ない、易しい問題の組合せのものから最も高度な問題の組合せまで、A、B、Cの三段階に分類する。

(5) いずれの原告問題における個々の問題は、原告が長年にわたり行なってきた入試分析を基に、その配列、順序並びにその内容を以下のとおりの原則で決定する。

① 各題材を理解する上で必須の基本的(要素的)な問題を配する。

② 難易度の低いものから高いものへ配列を行なう。

③ 過去の入試問題との重複を極力避ける。

但し、文部省の指導体系から出題せざるを得ない問題については、類似もしくは同種の出題もやむを得ないことはいうまでもない。

④ 次年度の入試傾向を予測した問題を組み入れる。

⑤ 必ずしも入試対策のみに偏らず、基礎学力の向上を目的とした問題も加味するよう留意する。

(二) 具体的問題作成のシステム

具体的には次のような創意工夫の過程を経て、各日曜教室テスト問題を作成する。

(1) 学習カリキュラム

原告が、右学習指導を行なうため長年の経験と実績により確立してきたカリキュラムとは次のようなものである。

① 学習の期間

学習の期間は、小学四年三学期の二月初めから六年三学期の一月終わりまでの二年間とし、これを次の四期に分けて段階的指導を行なう。

ア 四年三学期及び五年一学期

イ 五年二学期及び同三学期前半

ウ 五年三学期後半及び六年一学期

エ 六年二学期及び同三学期

② 学習の単位

各学年、各コース、そして各期間の学習の方法及びその内容については、原告の長年の経験と実績に加え、近年の小学生に対する文部省の教育指導方針や最新の有名私立中学校の入試問題の傾向等を加味してこれらを十分に吟味し、原告独自の学習カリキュラムを考案し、これを「日曜教室学習予定表」と題して作成している。

(2) 能力別指導

いかにレベルの高い集団とはいえ、進度が進むにつれて同学年の中でもかなりの学力の差異が生じてくるので、原告は、この学力集団の質をより的確につかんでおくことが重要と考え、五年時にはA、Bの二段階の集団に組分けを行い、また六年時にはA、B、Cの三段階の集団に組分けを行なう、いわゆる「能力別指導方針」を実践している。したがって、実際の日曜教室テスト問題の作成にあたっては、テストを受ける各学年、各コースの児童の学力を把握しておくことが必要であり、各コースとも平均点は六割を目安として作成する。

このような目標を具体化するために、原告が日曜教室テスト問題を作成するに当たっては、原告の過去の豊富なデータの活用と「日曜教室」を通した指導という二面から、各コースの学力を正確に把握して作成するよう配慮しており、この点において、市販のテスト問題にはない特徴を有している。

(3) 「日曜教室テスト問題」の態様

「日曜教室テスト問題」は、その目的により、「平常の日曜教室テスト問題」と「特定の日曜教室テスト問題」の二種類に分かれる。

① 「平常の日曜教室テスト問題」は、原告のカリキュラム及び「予習シリーズ」に即し、児童にその週の学習内容がどの程度まで理解されて咀嚼されているかを診断するテストである。

「予習シリーズ」は、与えられたその週ごとの領域、内容を確実に一つずつ理解消化していけば、入試にあたって必要にして十分な知識と考え方が身につくことを目標とした学習教材である。更に、テスト終了後には、進学研究社を通じて、テスト問題を教材とした指導を行ない、予習シリーズでの学習→テスト→授業のパターンをしっかりと掴み、これを積み重ねていけば、無理無く高いレベルに到達できることを狙いとした仕組みをもっている。

したがって、「平常の日曜教室テスト問題」は、その週の限られた領域からの出題とはいえ、児童が「予習シリーズ」の内容をどの程度まで深く学習、理解しているかを的確に診断し得るテスト教材であり、単にテストのためのテスト、評価のための評価ではなく、個人の学習がどれだけ効率よく進められているかを問う診断テストとしての意味あいを強く持つテストといえる。また、テスト結果の最も重要な意味は、「予習シリーズ」を基盤とする児童の学習の習熟度が結果として成績に反映することにある。

よって、これらの個々の問題は、その週の学習で鍛え、練られた思考力を自在に使いこなしていけば、解答し得る内容であり、かつ新鮮でオリジナリティーに富んだ形で与えられる。また、各学年、各コースの児童にとって、難しすぎず、易しすぎず、小学生向きの言いまわし、表現力の適切さも配慮する。更には、二年間八三回の日曜教室テストにより、各教科共、すべての内容が体系的に漏れなく、整理された形で、しかも入試問題を意識しつつ与えられる。それ故、かなり細かい点にまで気を配って、作成、構成、編集を吟味するので、その作成に当たっては教科に精通した知識と経験を要するものである。

② 「特定の日曜教室テスト問題」(組分けテスト、合不合判定テストなど)は、個人のその時点での学力、資質を問うためのテスト問題である。

組分けテストは、「学力に応じた指導を行なう」との方針から、日曜教室の受講生を学力別に会場、組を決定して編成する目的で年三回実施するテストであり、「予習シリーズ」四週分からの出題を原則としている。これは、出題の幅を広げて、多角度からの実力、応用力を見るものであり、四週にわたって学んできた内容をどこまで完全に定着しているかを見るものである。

合不合判定テストは、志望校選定のため、全領域から出題されるテストであり、六年二月期に三回実施される。三回にわたって実施する目的は、全領域から漏れなく、偏りなく出題することによって、総合学力を確かめるためである。

(三) 以上の問題作成の経過に照らせば、原告問題は、いずれも編集著作物に該当する。

3  原告問題の著作権取得原因

(一) 法人著作

原告問題は、法人である原告の発意に基づき、原告との専属契約あるいは顧問契約を交わす専門家及び原告の被用者である講師あるいは職員ら原告の業務に従事する者において、その職務上、各問題の原稿を作成、校正、編集して作成され、原告の著作名義の下に公表されている編集著作物であり、一教科一回分の各原告問題の著作者はいずれも原告である。

(1) 右の作成過程を「平常の日曜教室テスト問題」について詳述すれば、以下のとおりである。

① 原告は、「平常の日曜教室テスト問題」作成にあたり、年二回問題作成者会議を実施する。実施に当たっては、日頃から指導育成している専門講師を各教科ともに七名ないし八名ずつ選定し、領域別、回数別に分担して後記(3)のとおり原案の作成を委託し、作成された原案に対し原稿料を支払う。

② 原告は、右原案を同じく別の専門講師三名に校正させ、更に、別の講師三名にゲラ校正をさせる。原稿校正については、主として質的内容、形式面、解答面を吟味する。

③ 原告は、これと平行しながら、更に、担当職員が以下のとおりの再校正もしくは追加、変更、削除を行ない、最終原稿を作成し、これを校正、印刷する。右校正、追加、変更、削除の要点はおおよそ次のとおりである。

Ⅰ 学習予定表や「予習シリーズ」に準拠しているか。

Ⅱ 難易の程度が、その問題を受験する児童層に適当であるか。

Ⅲ 学習の狙いに則った出題であるか。

Ⅳ 試験問題と量の関係は適当であるか。

Ⅴ 過去の「日曜教室テスト問題」、参考書あるいは問題集などに全く同じ問題はないか。

Ⅵ 別解答が数多く出るような問題はないか。あったとすればどのように条件を変え、あるいは加えることによって解決できるか。

Ⅶ 資料、グラフ、図は適当か。

Ⅷ 誤字、脱字はないか、問い方の言いまわしに不明確な点はないか。

Ⅸ 配点は適当か、また間違いはないか。レイアウト(体裁)は適当か。

④ 原告は、更に前記担当者が一学年一教科一回分について一名ずつ一週間かけて前記再校正を繰り返し、最後に指導主幹(各教科一名のベテラン教師経験者)がこれを監修して、最終的な問題を完成させる。

(2) 「特定の日曜教室テスト問題」作成の場合

① 組分けテストは、各教科とも、一名の専門講師に後記(3)のとおり原案の作成を委託し、原告は、その原案をもとに担当職員二、三名と他の専門講師三、四名で編集会議を実施する。会議は原案について様々の観点から検討討議し、最終原稿をまとめあげる。

② 合不合判定テストは、次の手順で作成する。

Ⅰ 合不合判定テスト問題作成委員会を組織し、担当職員の他に各教科とも三名の専門講師を選出してこれに当てる。

Ⅱ 問題作成のプロット会議を開催し、これを即日仕上げる。

Ⅲ 作成プロットに沿って、各教科とも作成委員三名の他に七名くらいを選出して領域、分野別、回数別に二か月くらいの期間で仮原稿を作成させる。

Ⅳ 作成委員三名で各教科とも、仮原稿の下見、資料収集などの会議をのべ三回実施する。

Ⅴ 本原稿作成のための合宿を五泊六日の予定で行なう。この合宿には作成委員一二名と職員管理者が参加して、期間内に本原稿を仕上げ担当職員に渡す。

Ⅵ 当該日曜教室の担当職員は作成された本原稿を二、三名で下見及び修正を行なう。

Ⅶ ゲラ刷りになった本原稿をもとに最終的な編集会議を実施する。この会議は合計三回実施し、会議は当該日曜教室の担当職員二、三名と作成委員三名並びに専門講師一名で構成され、あらゆる角度からの検討修正を行ない最終原稿を作成する。

(3) 原告が、原案執筆者に原案の作成を依頼する概要は以下のとおりである。

① 原告問題作成当時(昭和五八年から昭和六〇年)の各教科の原案執筆者は、判明している者だけで別紙原案執筆者一覧表のとおりである(なお、原稿は問題完成後一ヶ月前後で廃棄処分されたため、個々の原告問題についてどの者が具体的に担当したかは調査不能である。また、峰岸正男は、昭和五九年度まで進学研究社からの出向社員であったが、昭和六〇年度からは、他の原案執筆者と同様、後述する契約関係に入った。)。

そして、原告と原案執筆者との間には、過去長年の慣行から、基本的かつ継続的な原案執筆の依頼及びこれを受託する旨の合意が存在しており、依頼の頻度も比較的定期的に行われ、その対価として一定額の基準が定められていた。

② 原告は、各原案執筆者に対し、原告のカリキュラム及び「予習シリーズ」その他の原告の発行する教材に準拠して原案を作成することを始め、執筆者会議で決められた原案の体裁や問題の形式等及び依頼の都度指示する題目の範疇、出題の個数、配列順、難易度等、原案の作成指針について具体的かつ詳細に指示して原案の執筆を依頼していた。

③ 原案執筆者は、鉛筆により手書きで原案の原稿一通を書き上げ(通常原告から支給される原案作成用の原稿用紙を用いている。)、これを原告に引き渡すが、引渡後の原告による編集、校正等による加除、配列替え、訂正、変更等が行われることを前提としており、かつこれを容認することが原案執筆の条件となっていた。

(二) 著作権の譲渡

仮に、原告問題の原案について、各原案執筆者の著作権が発生するとしても、原告は、当該原案の引渡しと同等に当該著作権を譲り受けたものである。

すなわち、前記のとおり、原案執筆者らは、原案を原告に引き渡した後も原告が当該原案に変更を加えてテスト問題を完成させることに合意していたばかりでなく、原告が「日曜教室テスト問題」の作成、頒布を重ねて行っていることを知りながら長年にわたり著作権を主張したり、別途印税の支払いや原稿料の請求をしたことはなく、原案執筆者は、原告に当該原稿を買い取られるのが通例と考えており、その旨了解していたこと、原告は原案執筆者に対し、当時の物価水準からみて相当高額な原稿執筆料を支払っていたこと、原告と原案執筆者との間には、当該原稿について特に著作権が原案執筆者に存するとの約定は存在せず、原案執筆者においても著作権が自己に存するとの認識はなかったこと、これらの状況を判断すれば、原告と原案執筆者との間には、原稿引渡時に原告がこれを買い取り、その著作権及び所有権を原告が取得する旨の著作権譲渡の合意が成立していたものと解すべきである。

(三) 著作権譲渡後のさらなる法人著作

仮に、右(一)の主張が認められないとしても、原告は、右原案をもとに、前記のとおり原告の担当者らが追加、変更あるいは削除等を行って最終原稿を作成するものであり、その際には、「予習シリーズ」の問題を変形した問題、過去の入試問題を参考にして変更を加えた問題、その他原告が長年にわたり収集したテスト問題に関する資料からの問題等を素材として選択し配列するものであって、右原案に対して原告の有する思想を創作的に表現し、原告独自のものとして完成するのであるから、原告の手による最終原稿の完成の段階においては、原告問題は法人たる原告の編集著作物として成立するものである。

4  被告の行為

(一) 被告は、昭和六〇年ころから同六三年一月ころまでの間に、「四進レクチャー」の名称で、四谷大塚「予習シリーズ」完全準拠と銘打ち、自習プリントと称して、原告の編集著作物である「日曜教室テスト問題」の中から別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載のとおり、原告が著作権を有する昭和五八年度から昭和六〇年度までの間の四年三学期用から六年二学期用までの「日曜教室テスト問題」を複製印刷してこれを通信販売等により一般に販売した。

(二) 被告問題のほとんどの部分は、原告問題の該当部分とその配列、順序等の形式及びその内容とも全く同一のものであるが、中にごく一部ではあるが、語句の違い、問題の順序の入れ替え、問題の組み替えのほか、出題年度の変更に合わせた引用のグラフ、表、地図等の変更等が行われているものが存在する。しかしながら、これらの違いは、いずれも原告問題の同一性を変じない程度の修正あるいは増減の範囲内であり、複製と言えるものである。

(三) 被告は、右侵害行為を行うにあたり、原告の著作権を侵害することについて故意又は過失があった。

5  原告の蒙った損害等

被告が行った原告問題の複製とその販売は、原告の有する著作権を侵害する不法行為を構成するとともに、何らの法律上の原因なくして他人の財産により利益を受けた場合に該当し、不当利得をも構成するものである。原告が、被告に対して請求しうる損害額又は損失額は、原告問題の合理的な利用によって原告が得るはずであった利益の額と同一であり、具体的には以下の金額となる。

(一) 主位的請求(被告の得た利益)

(1) 被告は、昭和六二年二月一日から同六三年一月三一日までの間、原告問題を複製して被告問題を印刷し、これを四教科一週間分につき二〇〇〇円の価格で少なくとも毎回平均二〇〇名以上の一般顧客に販売した。

(2) 被告は、同期間中に、四教科六九週分を販売し、左のとおり総額金二七六〇万円以上を売り上げ、純利益として売上高の五〇%に相当する金一三八〇万円の利益を得た。

二〇〇〇円×二〇〇名×六九週分×〇・五=一三八〇万円

(3) 被告の右利益は、原告の損害と推定される。

(二) 予備的請求1(原告の逸失利益その1)

(1) 原告は、「日曜教室」を運営している進学研究社に対し、「日曜教室テスト問題」の印刷物を販売しているが、右進学研究社は、提携塾(「日曜教室」とほぼ同内容の学習方式の採用と実施を行うことを別に契約している塾)に対して、一教科一回分の問題用紙を一部当たり二〇〇円で販売している。

(2) 原告が、「日曜教室テスト問題」の一教科一回分の問題の作成に要するコストは、原稿料及び印刷料合計で平均六二円であるが、原告が右二〇〇円で被告に対し原告問題を直接販売したとすれば、原告は、一教科一回分の問題用紙一部あたり一三八円の利益を得ることが可能であった。

よって、原告の得べかりし利益は、右一三八円に、被告の販売した総数である四教科六九週分の二〇〇名分の五万五二〇〇部を乗じた七六一万七六〇〇円となる。

(三) 予備的請求2(原告の逸失利益その2)

(1) 原告は、昭和六〇年度分から、同年度に使用した「日曜教室テスト問題」について、その翌年に四教科の問題全部を各教科及び各シリーズ毎(四年三学期から六年二学期までを四つのシリーズに分けたもの)に一冊にまとめた問題集を出版するようになった。もっとも、昭和六〇年及び六一年度実施分の問題集については、主として在籍生に無料で配布し、その代金相当額は入会金等の経費に含めていたが、昭和六二年度の実施問題集からは、提携塾に対し、四教科一シリーズ分を四〇〇〇円で販売するようになった。

(2) そこで、被告が、昭和六二年度に総数二〇〇部の昭和六一年度実施問題集を、原告が販売した昭和六二年度実施問題集と同額の四教科一シリーズ分四〇〇〇円で市販したとすれば、四シリーズ分の販売代金総額は三二〇万円となり、原告が右販売をしたとするならば、少なくともその七割の利益を得ることが可能であったから、原告の得べかりし利益は、二二四万円に相当する。

(四) 予備的請求3(通常使用料相当額)

本件では、販売総額に対する著作権使用料としては、出版業界における慣習上の著作権料割合である一〇パーセントが妥当である。

(1) 被告は、前記(一)のとおり、「四進レクチャー」の販売により二七六〇万円の売上を上げているのであるから、著作権使用料として、その一〇パーセントである二七六万円が相当である。

(2) 前記(二)のとおり、原告が被告に対し、原告問題五万五二〇〇部を単価二〇〇円で販売したとすれば、その販売代金総額は一一〇四万円となるから、著作権使用料として、その一〇パーセントである一一〇万四〇〇〇円が相当である。

(3) 前記(三)のとおり、原告が四シリーズ分を市販したとすればその販売代金総額は三二〇万円となるから、著作権使用料として、その一〇パーセントである三二万円が相当である。

6  結語

よって、原告は、被告に対し、原告が編集著作権を有する原告問題の印刷、販売、頒布の禁止を求めるとともに(訴えの変更前の請求)、被告問題の印刷、販売、頒布の禁止を求め(訴えの変更後の請求)、右編集著作権の侵害に基づき原告が蒙った損害又は損失金一三八〇万円(予備的に七六一万七六〇〇円、二七六万円、二四〇万円、一一〇万四〇〇〇円、三二万円)及びこれに対する不法行為の又は不当利得の日以降で訴状送達の日の翌日である昭和六三年八月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の販支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因1(当事者)について

請求原因1(二)の事実は認め、同(一)の事実は否認する。

2  請求原因2(原告問題の編集著作物性)について

(一) 原告問題がその問題の素材の選択、配列、組合せ、順序、内容並びに程度の段階等の編集に関して、創作性を有するものであるとの主張は争い、その余の主張事実は知らない。

(二) 被告の反論

(1) 著作物性の欠如

そもそもテスト問題は、著作物として著作権法の保護を受ける対象とはなり得ない。

テスト問題は、各学校等の教育の場において、各種事物の理解や人の育成等に役立つ教育手段として用いられ、時には入学・入社試験のような選抜の手段としても用いられる公共性の著しく高いものであって、万人の自由利用に供すべきものである。ことに、教育や学習は繰り返しを重ねて初めて効果の表れるものであり、ここから当然に複製・引用・変更を伴うものであることはこれまでの歴史が認容してきたことであるから、一個人・一団体の財産的利益を追及すべきものではない。もしテスト問題自体に著作権の保護を与えることとなれば、その利用のたびに既成使用の有無等の調査や使用料の支払い等、円滑な教育効果を損ない、社会・教育の停滞を招くことは必然である。原告においても、平成四年に、「中学入試速報」として、男子私立中学校及び女子私立中学校の各主要四校の入学試験問題を全くそのまま集積し、これらを完全複製して印刷し一冊にして出版頒布しているが、このような行為は、各種試験の受験生への資料の配布として広く一般に行われている利用形態であって、このことは試験問題が持つ特性、すなわち一度出題されればその問題は当初の目的を達し、その後は繰り返し利用され、学力の向上蓄積に用いられる性質の素材であるということ及び著作権等の保護の適用外として皆が広くこの自由利用を認容してきていることを示しているものである。

また、テスト問題は、右のようなある一定の目的のために実施されるものであり、実施ないし公表されてしまえばその時点で目的は遂げられ一過性を有するものであるから、継続的保護を目的とする著作権法では、テスト問題の保護は当初より予定されていないものと言うべきである。

(2) 編集著作物としての創作性の欠如

原告は、長年にわたる経験と実績から独自に考案したカリキュラムに基づき原告問題を作成していると主張するが、原告問題が有名中学校入学を目指す児童を対象としている以上、いくら独自の体系を立てようとも、文部省が定めた初等中等教育の体系から大きくはずれることなく学習を進める構成とならざるを得ないのであり、原告が主張するカリキュラムも右指導要領からかけ離れた独自の構成をしている訳ではない。原告が「独自のカリキュラム」と言っても、それは、文部省のカリキュラムの順序を変更したり、単元によって軽重をつけたり、その進度が早かったりするだけのものである。

また、原告は、題材の選択又はジャンル分け等いかにも独自の作業をしているかのような主張をしているが、原告問題における問題の選択又は配列は、結局のところ「難易度配列」であり、「基本問題か応用問題か」の別、あるいは「入試問題における過去の出題の有無」であって、それこそこの種の選択・配列の基本であり、過去の入試問題にしても、数多くの進学塾、学校教育の場においてもどこでも行っている編集作業である。しかも出題数も三問ないし六問程度であることを考えると、この数少ない問題数の配列自体に創作性が表現されているとは認められない。既に社会的に知られた方法で少数の問題を配列したに過ぎない。

むしろ、原告が創作性の根拠として縷々主張するものは、同様の業者でも一般に広く使われる「うたい文句」に過ぎず、原告問題における問題の選択・配列を見て、原告が主張する特色・独自性を指摘することは全くできず、原告の創作性を表すものではない。また、テストの解答者は、時として問題を解く順番はまちまちであり、問題の配列に特別の配慮・工夫をする意味はなく、テストでは何を出題するかが全てであって、問題の配列にはほとんど意味がないのであるから、問題の配列に創作性を認める余地はない。

しかも、原告問題における問題の選択にしたところで、原告が主張する問題作成過程を見れば、作成者会議は年二回に過ぎず、かつ決められた担当者が分担して作成するとのことであるから、この段階で既に作成者個人により問題の選択は行われ、その選択方法も極めてありふれた方法により行われているものである。

3  請求原因3(著作権取得原因)について

(一) 同(一)の冒頭部分は否認し、その余の事実はいずれも知らない。

(二) 被告の反論

(1) 法人著作について

① 原告が、「法人である原告の発意に基づき」と主張しているものは「日曜教室テスト問題」全体の企画に過ぎず、一教科一回分ごとの各原告問題が、原告の発意に基づくものでないことは、原告も自認している。

② 原告は、「原告との専属あるいは顧問契約を交わす専門家」に原告問題の原稿の作成を委託する旨主張するが、これは、原告が外部の者に原稿の作成を「外注」することに他ならず、右専門家は「法人の業務に従事する者」には該当しない。また、原告は、各原案執筆者に対し、継続的な執筆依頼を比較的定期的に行い、依頼の都度詳細な指示をした旨主張するが、甲第六〇三号証を見ると、各問題の執筆担当者は全て異なるのであるから、その依頼は不規則に、かつ、場当たり的にされていたことが明らかである。さらに、原告の指示内容というのもいわば原稿の書き方といった形式であり、内容についての指示はカリキュラムに準拠すること等抽象的な指示に留まっている。原告による編集・校正についての主張も、実際にどのような加除、変更がされたのかの立証はなく、原告が行っていたことは、作成された原告問題のチェックや確認に留まり、単にとりまとめの事務を行っていたに過ぎない。むしろ、「日曜教室テスト問題」の作成過程の実際は、被告が執筆者であった知人から聞いたところでは次のとおりであった。すなわち、原告は原案執筆者一人に対し、日曜教室テスト問題の一教科一回分の作成を依頼するが、原案執筆者は自分一人で完全原稿にし、問題作成について他の先生と打ち合わせたりすることは要求されていない。原告に納品された完全原稿は、他の契約教師により校正されるが、実際には問題を改変されることはなく、誤記誤答だけ訂正されて印刷に出される。しかも、右訂正は不充分で、しばしば「週報」に訂正記事が出されていた。したがって、このような状況では、原案執筆者が原告の業務に従事する者とは言い難い。

③ 原告問題(日曜教室テスト問題)は、進学研究社が実施する日曜教室で使用されるものであり、原告問題に表示されているのも「四谷大塚進学教室」と記載されているだけで、原告の「有限会社四谷大塚進学教室」とは表示されておらず、右記載はテストの実施者を表示しているとも受け取ることができるので、原告問題が原告の著作名義の下に公表されているとは言い難い。

④ したがって、原告問題については、著作権法一五条一項の要件を満たさない。

(2) 著作権の譲渡について

原告が著作権の譲渡の根拠として掲げる事由は、いずれもその理由となるものではない。すなわち、原稿引渡後に編集者が編集・校正することによりその内容等を変更することは一般的にしばしば行われていることであり、原案執筆者の著作権が失われることにはならないし、原案執筆者が著作権の主張をしなかったことが著作権を喪失する理由にもならない。また、執筆料の多寡も著作権の移転とは関係がない。著作権は、周辺事情によりその譲渡の有無が決せられるのではなく、契約により移転するものであり、原案執筆者との間に特に著作権についての約定がない場合には、作成者である原案執筆者に著作権があるというのが著作権の法理である。ところが、原告は、各原案執筆者との間の顧問契約、労務契約等の基本的な契約はおろか、著作権の権利移転を定めた契約書もしくはその契約部分さえも一切提示しておらず、原告問題を実際に作成した原案執筆者の全ての特定すらできないのであるから、原告が各原案執筆者から著作権を譲り受けたとの立証はされていない。

(3) 著作権譲渡後のさらなる法人著作について

原告は、原案執筆者からの著作権の譲渡を受けた後のさらなる法人著作を主張するのであれば、原案引渡後完成に至るまでの過程を具体的に明らかにして原告の作業内容を立証すべきであるが、この点に関する原告の立証はされていない。

また、これまでの原案作成に関する原告の主張や原告が提出した陳述書によれば、決まった数の問題を作成してくるのは原案執筆者であり、原告が更に問題の選択や配列をしている訳ではなく、そのような立証もない以上、著作権譲渡後に原告の編集著作権が成立することはありえない。

4  請求原因4(被告の行為)について

(一) 被告が、昭和五九年一二月ころから、日曜教室テスト問題を題材とした「四進レクチャー」を印刷し、これを通信販売していることは認めるが、被告問題が原告問題を複製印刷したものであるとの主張及び著作権を侵害することについて故意又は過失があったとの主張は争う。

(二) 被告の反論(複製の否定)

(1) 「四進レクチャー」は、原告問題(日曜教室テスト問題)を題材・素材としてこれに手を加え、主として解答及び解説を中心に補充問題も加えて印刷販売しているものであって、原告問題(日曜教室テスト問題)を単に複製印刷したいわゆるデッドコピーではない。

被告は、児童に対する教育の本質から、常々最も教育効果の上がるものは何かと研究し、原告問題(日曜教室テスト問題)にも、作問の悪いものや選抜や順位付けのために作り出されたり並べられたりしたために学習効果とは無縁と思われるものがあるので、これら教材として適さないものは作り変えたり並べ替えたり排除したりして、良い問題は良い問題として取り上げ、解答・解説に始まり応用問題、別解、配列に至るまで見直し、全体として「四進レクチャー」を創作しているものであって、参考にされた問題に対して批評活動をしているものに過ぎない。

(2) 原告の「日曜教室テスト問題」は有名中学入試のため及び能力別に選別するために行うことを目的とするテストであるのに対し、被告の「四進レクチャー」は、四谷大塚進学教室に通う会員及び同進学教室の教材や「予習シリーズ」を利用して学習する児童を対象に、原告問題(日曜教室テスト問題)を題材、素材にしてテストの弊害を緩和しつつ児童の教育的見地から適否を踏まえて指導する目的での解説書を中心とした書物であり、互いに思想、性格、目的及びその意図するところ、形式を異にするので、両者は別個独立の編集物である。

したがって、両者が教科、単元の内容及び順序をほぼ共通にしているからといって、直ちにそれだけで原告問題を全く模倣したことにはならない。

5  請求原因5(損害)について

(一) 同主張は争う。

原告は、原告問題の「合理的な利用」に対する原告の得べかりし利益が損害ないし損失であるとの主張をしているが、「合理的な利用」とはいかなる利用であるのか意味不明であるばかりではなく、原告は、原告問題作成当時、テスト実施後はこれを廃棄していたのであって、被告が「四進レクチャー」で原告問題を利用していることは、原告が利用していなかった原告問題を有効に利用したいわば廃物利用であり、原告には何らの損害も損失も生じていない。

(二) また、原告が請求する具体的金額の算定方法も以下に見るとおり不当である。

(1) 主位的請求について

「四進レクチャー」は、原告問題を利用した部分に加え、被告が独自に作成した解説や補充問題等の部分で構成されているものであり、その価格も両者の分量比で判断されるべきものである。また、純利益は、出版業界では一〇パーセントに満たないのが現状である。

(2) 予備的請求1について

原告は、日曜教室におけるテスト実施前に原告問題を販売するはずがなく、「被告に対し原告問題を直接販売したとすれば」との全くあり得ない事実を前提としており、この場合、原告の得べかりし利益は当初から存在しない。

さらに原告は、提携塾に販売した場合と同額の二〇〇円を主張の前提としているが、この金額は、テスト実施権込みの値段であり、日曜教室におけるテスト実施後に、同じテスト問題を同じ金額で買う訳がなく、そもそも原告が提出した甲第五八二号証では、通常の問題では一教科当たり一五〇円で販売されているのであり、原告の計算数値は恣意的かつ場当たり的であって、その他の主張数値も推して知るべしというものである。

(3) 予備的請求2について

原告は、「原告が、昭和六二年度に総数二〇〇部を、昭和六一年度問題集の四教科一シリーズ分の四〇〇〇円と同額で市販したとすれば」との仮定論を述べるが、原告はこの年度の問題集を市販しておらず、現実に行っていないことを前提とした主張は全く意味がない。

(4) 予備的請求3について

原告が主張する一〇パーセントの著作権使用料率は極めて高率である。出版業界では、「編集著作権」料の割合は定価の三ないし五パーセントであり、使用料も、発行部数×定価×使用料率×(利用頁数÷全体頁数)で算定されている。

三  抗弁

1  引用による利用

(一) 今日、受験教育界の中にあっては、原告のような私的教育機関であっても、計画的で綿密な指導をしている場合には、教科の教育という点でもはや公的な教育機関とさして差異はない。それゆえ原告の行う「日曜教室テスト」などは、出題される問題が適切かどうか各方面からの批判によって検証されなければならないものであるところ、被告の「四進レクチャー」が右のような原告の「日曜教室テスト問題」に対する批評活動をしているものにすぎないことは、前記二4(二)のとおりである。

(二) 被告の「四進レクチャー」は、「日曜教室テスト問題」の一部を引用して利用し、しかもこの引用は原告問題の問題用紙一式部分を「四進レクチャー」の最初にほぼ同形式で一式を引用してあるので、引用にかかる原告問題部分とそれ以外の解答、解説、補充問題等の被告が独自に作成した部分とは明瞭に区別して認識することができ、「四進レクチャー」が原告問題(日曜教室テスト問題)を素材としていることは、被告が配布しているパンフレットや「利用の手引き」等で当初から明示している。

また、「四進レクチャー」における原告問題部分と被告が独自に作成した部分との文字による総量比較をすれば、引用にかかる原告問題が「四進レクチャー」に占める割合は約一八パーセントないし三四パーセントに過ぎず、「四進レクチャー」では、被告が独自で作成した解説等の部分が主で、引用された原告問題部分が従であることが明らかである。

(三) したがって、被告の行為は、著作権法三二条一項所定の引用による利用に当たる。

2  黙示の承諾

被告は、原告問題を題材とした「四進レクチャー」の販売を昭和五九年一二月から開始したが、昭和六一年二月二六日、原告から「当社の過去問はどの程度使っているか。」との照会状が届いたことから、被告は誠意を持って回答し、その後一年以上も原告からは何らの苦情、抗議もなく経過した。

その後、昭和六二年六月二九日に至って初めて、原告から「四進レクチャー」は原告に無断で出版されているものであるから中止するようにとの内容証明郵便が届いたが、それ以後も、原告の中村総務部長が二度被告を訪れた以外は何らの折衝はなく、右中村氏の来訪の際も「四進レクチャー」の出版についての抗議はなく、「四進レクチャー」を参考にしたいからとのことで大量に購入されただけである。ところが原告は、昭和六三年七月一三日になって本件訴えを提起したものである。

このように、原告は、被告のこの間の出版活動を熟知していながら何ら販売の差止め等の処置を講ぜずに被告の活動に任せ、「四進レクチャー」を購入しこれを参考にして昭和六一年に昨年度問題集を出版して被告に追従しただけであるから、このような原告の不作為は、被告が原告問題を題材とした「四進レクチャー」を作成し販売することを黙示に承諾していたことに他ならず、むしろ原告の本訴請求は、先行の「四進レクチャー」を排除し、単に市場の独占を意図した営業政策に過ぎない。

四  抗弁に対する認否反論

1  引用による利用について

被告が原告問題を利用する方法は、公正な慣行に合致するものでもなく、また、引用の目的上正当な範囲内にあるものでもないから、被告の主張は認められない。

(一) すなわち、被告の「四進レクチャー」において利用されている原告問題の量は、引用するために必要な最小限度の範囲内を遥かに超えており、そこに利用されている原告問題が主となっていることは明らかである。そして、引用の方法についても、カギ括弧でくくって表示する等、被告の著作物との区別を明らかにするような方法は講じられておらず、被告の利用方法が、公正な慣行に合致するものでないことは明らかである。

(二) また、被告の「四進レクチャー」の目的は、原告問題の批評、論評、研究といった類のものではなく、被告自らの営利を目的として複製を意図して行われたものである。被告は、原告問題の複製物であるテスト問題そのものを、原告と同様にテスト問題として使用することを目的として通信販売を行い、あるいは自ら経営する学習塾の生徒に対して使用させてきたものであって、たとえこれに被告が独自に作成した解説と解答を併用したとしても、被告の利用が、引用の目的上正当な範囲を逸脱していることには変わりがない。

2  黙示の承諾について

被告主張の事実は否認し、その主張は争う。

第三証拠《略》

理由

第一訴え変更の申立てに対する被告の異議について

原告は、事実摘示欄第一、一中(訴え変更前の請求の趣旨)1の「被告は、別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。」との請求を取り下げ、新たに同(訴え変更後の請求の趣旨)1の「被告は、別紙対照表の「被告作成テスト問題」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。」との請求を追加するいわゆる交換的訴えの変更の申立てを行った。

本件訴訟では、原告は当初から、原告が著作権を有する各教科一回分の原告問題を被告が複製した旨主張していることは記録上明らかであり、しかも、旧請求は、原告が著作権を有する原告問題を印刷、販売頒布してはならないという内容であったものを、新請求では、原告問題を複製した結果作成される被告問題を印刷、販売頒布してはならないとの請求に変更したに過ぎないのであるから、旧請求の当否の判断に必要な主要事実、すなわち、原告問題の著作物性、原告の著作権取得原因及び被告問題が原告問題を複製したものであるか否かの各点は、新請求の当否を判断する場合においても同様に審理の対象となり、旧請求の審理に供された訴訟資料及び証拠資料は、新請求の審理にそのまま利用することができ、両請求における請求の基礎は同一であるとともに、訴えの変更により訴訟手続を著しく遅滞させることもないと解される。したがって、右新請求の追加は適法であって、これと見解を異にする被告の主張は採用できない。

もっとも、旧請求の取下げについては、民事訴訟法二三六条の定める要件が必要であるが、被告は、右訴えの変更の申立書が送達されてから三ケ月以内に旧請求の取下げを同意しない旨を述べていることは記録上明らかであるから、旧請求の取下げはその効力を生じておらず、旧請求は依然として係属しているものと解すべきである。

したがって、以下、旧請求の当否も含めて判断する。

第二本案の判断

一  当事者について

請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、請求原因1(一)の事実が認められる。

なお、《証拠略》によれば、「四谷大塚進学教室」は、昭和二九年にその名称で訴外鈴木仁治が始めた小学生向けの受験指導の私塾であったが、昭和三三年一二月九日に有限会社進学研究社として法人化され、昭和四七年四月二四日には進学研究社の子会社として役員を共通にする原告が設立され、それまで進学研究社が行ってきた教材及び日曜教室テスト問題の作成業務を原告が担当するようになったもので、原告の業務は一人の正社員と進学研究社からの出向社員約二〇名が両社の業務を兼ねて行っていたことが認められる。

二  原告問題の編集著作物性について

1  《証拠略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一) 日曜教室の概要

四谷大塚進学教室は、私立中学等への進学を希望する小学校五年生及び六年生(正確には、小学校四年の三学期の二月から指導が始まる。)を対象に、算数、国語、理科及び社会の各科目についての学習指導を行う私塾であって、毎週日曜日に開催される「日曜教室」では、選抜試験を通過した児童(正会員)が、原告が作成したカリキュラムに基づき、一週間を一つの学習単位としてあらかじめ定められた学習範囲についてテスト及び解説を受け、そのテストの結果によって、当該一週間の学習の成果を確認するとともに会員全体の中における自己の学力の程度を把握することができるようになっている。なお、受講生には、右カリキュラムに対応するよう作成された「予習シリーズ」との表題の各科目毎の学習教材のほか、「計算テスト」、「漢字テスト」及び「算数問題集」の各教材が用意されている。

また、日曜教室では、右学習範囲に応じた出題を行う「平常の日曜教室テスト」のほかに、受講生を学力別にA及びB(小学校五年時)あるいはAないしC(小学校六年時)に分ける学力別指導を行っていることから「組分けテスト」(四週間分の学習範囲について年三回行われる。)と、志望校選択のために六年二学期に三回行われる「合不合判定テスト」が実施されている。

(二) 原告問題の構成等

各テスト問題は、各回とも概ね以下のような問題構成がとられている。

(1) 平常の日曜教室テスト問題

算数は、計六個の大設問が用意されるとともに、各設問には更に二個ないし四個の小問が用意されており、設問1は計算問題(二問)、設問2は空白となった四角の中の解答を求める文章題(四問)、設問3以下は、一定の前提を与えての文章題、図形問題あるいはグラフ問題等であって、設問2以下は、該当週の学習範囲に応じた出題となっている。

国語は、計四個ないし六個の大設問が用意されているが、メインとなる設問1の文章読解問題には、該当週の学習内容に応じた題材となる文章に関する小問が一〇間前後(更に小問が付されているものもある。)用意され、設問1だけでテスト用紙の約半分ないし三分の二を占めている。設問2以下は、方法等の言語要素問題や漢字の書き取り問題等に充てられている。

理科は、いずれも該当週の学習範囲に応じた三個ないし五個の大設問が用意され、それぞれに三個ないし一〇個前後の小問(合計で二五問程度)が付されている。

社会についても、いずれも該当週の学習範囲に応じた四個ないし五個の大設問が用意され、それぞれ五個前後の小問が付されている。

(2) 組分けテスト問題

算数は、計八個の大設問が用意され、設問1は小問八個からなる計算問題及び空白となった四角の中の解答を求める文章題、設問2以下は、二個の小問を配して、一定の前提を与えての文章題、図形問題あるいはグラフ問題等となっている。

国語は、計五個ないし六個の大設問が用意され、設問1及び2は小問四個ないし一〇個が配された文章読解問題、その余は言語要素問題や漢字の書き取り問題等に充てられている。

理科は、計四個ないし五個の大設問が用意され、それぞれに二個ないし七個の小問が付され、小問の中には更に三個ないし六個の小問が配されているものもある。

社会は、計三個ないし五個の大設問が用意され、それぞれに三個ないし一二個の小問が付されている(最後の問題には、小問のないものもある。)。

(3) 合不合判定テスト問題

算数は、計一三個の大設問が用意され、設問1及び8は二個ないし三個の小問を配した計算問題、設問2及び9は三個ないし四個の小問を配した文章題、それ以外の設問は、小問二個を配し一定の前提を与えての文章題、図形問題あるいはグラフ問題等となっている。

国語は、計三個ないし四個の大設問からなっているが、設問1ないし2(設問3に及ぶこともある。)はいずれもある文章を題材として、読解問題、言語要素問題や漢字の書き取り問題等の小問が四個ないし一三個配され、残りの設問は、単独の言語要素問題や漢字の書き取り問題等に充てられている。

理科は、計六個ないし七個の大設問が用意され、それぞれに四個ないし六個の小問が付されている。

社会は、計六個の大設問が用意され、それぞれに四個ないし一〇個の小問が付され、小問の中には更に二個ないし三個の小問が配されているものもある。

(三) 原告問題作成に当たっての指針等

(1) 平常の日曜教室テスト問題

① 前記(一)のとおり、平常の日曜教室テスト問題は、二年間の指導期間を一週間毎の学習単位に細分化したカリキュラムに沿って出題されているが、日曜教室も義務教育である小学生を対象としていることから、日曜教室テスト問題も文部省の定める学習指導要領の指導計画にある程度沿っていることは否定できない。しかしながら、右カリキュラムの定める学習時期は学習指導要領のそれに比べて繰り上がっているとともに、学習指導要領によれば時期を異にして分類されている学習内容のうち、同時期に学習することが学力向上のために有効と考えられる分野については、まとめて学習するようカリキュラムが編成されており、右のようなカリキュラム及びこれに対応する「予習シリーズ」に沿った平常の日曜教室テスト問題による学習指導によって、①基本的学力の向上、②学習能力の開発、③理解力及び思考力の強化、④応用力即ち類似応用問題対応力の強化、⑤問題解決速度の向上及び⑥入学試験対応力の向上の達成を目指している。

② そして、個々のテスト問題における設問の配列、順序及びその内容は、①各題材を理解する上で必須の基本的(要素的)な問題を配するとともに、②各大設問あるいは小問の難易度に差を設け、特に算数については、難易度の低いものから高いものへ配列を行ない、③過去の入試問題との重複を極力避け(文部省の指導体系から出題せざるを得ない問題については、類似もしくは同種の出題もやむを得ない。)、④次年度の入試傾向を予測した問題を取り入れ、⑤必ずしも入試対策のみに偏らずに、基礎学力の向上を目的とした問題も加味するよう留意され、また、能力別指導を行っていることから、同じ週(同じジャンル)のテスト問題でも、各コースに分けられた受講生の能力に応じて一部の設問を差し替え、テスト問題全体の難易度に差を設けている。なお、各コースとも該当週の学習成果及び受講生全体の中での学力の程度が把握できるような問題が選択されるとともに、平均点が六割程度となるような設問が用意されている。

(2) 組分けテスト問題及び合不合判定テスト問題

組分けテストは、能力別指導の観点から、日曜教室の受講生を学力別に会場、組を決定して編成する目的で年三回実施するためのテストであり、出題の幅を広げて、多角度からの実力、応用力を見るものであり、四週にわたって学んできた内容がどこまで完全に定着しているかを見るものであることから「予習シリーズ」四回分からの出題を原則としている。

また、合不合判定テストは、志望校選定のために総合学力を確かめるものであり、全領域からの範囲から偏りなく問題が選択されている。なお、いずれのテストにおいても、前記のとおりの目的及び問題選択の指針がとられているものと認められる。

2  ところで、著作権法一二条一項は、データベースに該当するものを除き、編集物であってその素材の選択又は配列に創作性を有するものは、著作物として保護する旨規定し、素材の収集、分類、選択、配列が一定の方針あるいは目的の下に行われ、そこに創作性を見い出すことができるのであれば、全体を著作物として扱うことに明らかにしているところ、右認定事実によれば、原告問題は、私立中学校等の入学試験に合格することを目指した児童の学力の定着と向上を目的とするとともに、その目的を達成するために、予め原告の定めたカリキュラムに基づき、前記1(三)のような指針の下に作成されていると認められるのであるから、各教科一回分の原告問題には、素材としての問題の選択又は配列に関する創作性の存在を認めることができるものというべきである。

もっとも、特に平常の日曜教室テスト問題については、文部省の定める学習指導要領の構成からかけ離れたカリキュラムを定めることはできず、日曜教室の最終的目的が私立中学校等の入学試験の合格にあることに鑑みれば、原告が素材の選択又は配列の創作性の根拠として掲げる事項も、受験指導を行う同業者において一般的に採用されている指導方針であることが推測され、問題数に制約があることも併せ考慮すると、原告問題の作成に際しての素材としての各設問の選択又は配列における創作性は、ある程度限られたものであることも否定できないと解される。

しかしながら、編集著作物における創作性とは、従前見られないような選択又は配列の方法を採るといった高度の創作性を意味するものではなく、素材の選択又は配列に何らかの形で人間の創作活動の成果が顕れていることをもって足りると解すべきであり、ことに原告問題のような私立中学校等の入学試験対策用のテスト問題においては、指導の目的及び問題作成の指針は抽象的には同業者間で共通するところがあるとしても、指導目的(最終的には合格)の達成に寄与するテスト問題として具体化することがまさに重要であると認められるのであるから、問題数が限られているとはいっても前記のとおり小問の数まで考えれば全体の問題数は決して少なくなく、限られた学習範囲の中における具体化の過程では、問題作成者の学識、経験、個性等が重要な役割を果たすものと解される。

したがって、原告問題における各設問の選択又は配列における創作性の幅にある程度の制約があるとしても、そのことから原告問題の編集著作物としての著作物性を否定することにはならない。これと見解を異にする被告の主張は採用することができない。

3  なお被告は、テスト問題はそもそも著作権法の保護の対象とはならない旨主張するが、その主張するところは、いわば教育論ないしテストの性質論に過ぎず、前記のとおり、一回分毎の原告問題も編集著作物としての著作物性が認められる以上は、被告が主張する事情から直ちにテスト問題における創作性の保護を否定することはできないと考えられる。また、原告を含む受験業界において従前有名私立中学等の入試問題集が作成頒布されているとの事実があるとしても、このような事実は、現実に入学試験に使用された問題という社会性その他の事情から著作権者が黙認していることを窺わせるに留まり、一回分のテスト問題であればこれを自由に利用することができるとする実定法上の根拠もなく、私塾内部で行われる試験問題について著作権による保護の制約を正当化すべき事情もない以上、右事実をもってテスト問題が著作権法の保護の対象外であると解することはできない。

三  原告の著作権取得原因

1  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 平常の日曜教室テスト問題については、原告は、日曜教室で指導を行う講師の中から、長年日曜教室の指導に携わり、原告問題の内容あるいはありようを熟知した講師を選んで日曜教室テスト問題の原案の執筆を依頼しており、原告問題作成当時(昭和五八年から同六〇年)、判明している者だけでも、別紙原案執筆者一覧表に記載された講師が、原告の依頼を受けて原告問題の原案の執筆をした(なお、峰岸正男は当時原告の従業員であったが、その他の執筆者はいずれも現職の教師等であり、原告の従業員ではなかった。)。

右各原案執筆者は、原告からカリキュラムの特定の回(分野)の執筆を依頼されるが、長年原案の執筆を担当している講師は原案執筆の依頼を受けた当初から、また、初めて執筆を依頼される講師はその依頼の当初に、前記二1(二)のとおりの構成のもと、同(三)(1)のとおりの問題作成指針に基づき原案を執筆するよう指示を受けており、各原案執筆者は、自己の担当領域につき、右問題作成指針に則り、「予習シリーズ」等の原告の教材を参照しつつ、原案を鉛筆書きで一通作成し、これを原告に引き渡していた。

原告は、各原案執筆者から原案の引渡しを受けた後、入試問題の出題傾向も含め、以下の観点から別の講師三名による校正とともに原告の担当職員による各設問の校正(追加、変更、削除等)を行い、手直ししたい問題については原案執筆者に照会し、指導主幹の監修を経て最終原稿を作成し印刷に回していた。

① 学習予定表や週間で行う「予習シリーズ」に準拠しているか。

② 難易の程度が、その問題を受験する児童層に適当であるか。

③ 学習の狙いに則った出題であるか。

④ 試験問題と量の関係は適当であるか。

⑤ 別解答が数多く出るような問題はないか。あったとすればどのように条件を変え、あるいは加えることによって解決できるか。

⑥ 資料、グラフ、図は適当か。

⑦ 誤字、脱字はないか、問い方の言いまわしに不明確な点はないか。

⑧ 配点は適当か、また間違いはないか。レイアウト(体裁)は適当か。

(二) 組分けテスト問題及び合不合判定テスト問題の作成については、請求原因3(一)(2)の①及び②のとおりの作成過程を経て最終原稿が作成されていたことが認められる。

2(一)  法人である原告が著作権を取得するためには、著作権法一五条所定の要件を備えることが必要であるが、右認定事実によれば、原告問題は日曜教室において使用されるテスト問題として作成されるとともに、その作成は原告の原案執筆者に対する作成依頼に基づきなされているのであるから、原告問題を作成するかどうかの意思は原告の判断にかかっているものであり、原告問題は、原告の発意に基づき作られたものであると認められる。

(二)(1)  次に、右認定事実によれば、日曜教室で指導を行う講師の中から選ばれた者が原告問題の原案を作成しており、かかる原案執筆者が、原告と雇用関係にある従業員ではないことは明らかである(なお、峰岸正男については、原告問題が作成された当時は原告の従業員であったことが認められるが、原告問題の国語のどの回の原案を執筆したかについては明らかでない上に、以下に見るとおり、同人が従業員であったか否かによって本件の結論が左右されるものではないと解されるので、以下においては同人も他の原案執筆者と同列に扱って議論を進める。)。

しかしながら、著作権法一五条が法人も著作者となり得る旨規定しているのは、同条所定の要件を満たす場合には、法人とその従業員との間に、当該著作物の著作権全体を法人(使用者)に原始的に帰属させるとの意思が存する旨を推測することができるとともに、法人が主体となって著作物を作成し出版することによって、法人が当該著作物に関する責任を負い、あるいは法人としての対外的信頼を得ているという社会的実態を重視したものと解されるのであるから、同条にいう「法人等の業務に従事する者」とは、法人と雇用関係にある者ばかりでなく、法人と被用者との間に著作物の作成に関する指揮命令関係があり、法人に当該著作権全体を原始的に帰属させることを当然の前提にしているような関係にあると認められる場合をも含むものと解するのが相当である。

(2) これを本件について見ると、まず「平常の日曜教室テスト問題」及び「組分けテスト問題」に関しては、ともに原告の策定したカリキュラム、予習シリーズ及び問題作成指針に則って原案が作成されるよう予め原案執筆者に依頼がなされているとともに、当該原案は鉛筆書きのまま原案執筆者から原告に引き渡され、当然に加除訂正が予定されていると解されるばかりでなく、実際に「平常の日曜教室テスト問題」では、別の三名程の講師と原告の科目別担当職員によって、誤字脱字の有無やレイアウト等の形式面のほか、内容面においても問題の内容、難易度、分量等多方面からの検討が加えられ、手直しが必要な問題についての変更等がなされた後、指導主幹の監修を経て最終的な問題が完成されるという経緯を辿り、また、「組分けテスト問題」においても、二名ないし三名の担当職員と三名ないし四名の講師で構成される編集会議で同様の検討がなされた後に最終的な問題の完成に至ること、原案執筆者は、原案として作成した右両問題が日曜教室で使用されることを了解してその作成依頼に応じているとともに、同じ問題を原案執筆者個人が別の機会に再度利用することは予定しておらず、そのような事実も申し出もなされたことは窺われないこと、以上に照らすと、「平常の日曜教室テスト問題」及び「組分けテスト問題」の原案の作成に当たっては、各原案執筆者は原告の指揮命令を受ける立場にあり、原告に問題の著作権全体を原始的に帰属させることを当然の前提にしているような関係にあると認められ、各原案執筆者も「法人等の業務に従事する者」に該当するものと解される。

もっとも、右認定事実によれば、「平常の日曜教室テスト問題」及び「組分けテスト問題」の原案の執筆に当たる講師は、日曜教室において長年講師を努めたベテランが多く、このような講師への執筆依頼の際には事細かな指示はなされていなかったことも窺われるが、このことは、各原案執筆者が原告問題の作成指針を熟知していたということに留まり、右のような指揮命令関係の存在を否定することにはならないと考える。

(3) 次に、「合不合判定テスト問題」についても、右認定事実によれば、原告と雇用契約を締結していない一〇名程の講師が、問題の原案(仮原稿)の作成に当たっているものと認められるが、その作戦過程を見ると、原案作成の指針となる問題構想の策定、本原稿作成のための合宿及び下見修正並びに最終的な編集会議いずれの場面においても、複数の講師のほかに原告の担当職員数名がこれに関与しているとともに、「合不合判定テスト問題」は、原告あるいは私塾としての四谷大塚進学教室が二年間にわたり行ってきた指導の集大成ないし入学試験直前の予想問題と位置付けられるのであるから、本原稿及び最終原稿の作成に当たっては、多方面からの検討が加えられて原案の問題についての修正削除等が行われているものと推測される。してみると、「合不合判定テスト問題」の作成に関与する講師も、原告の指揮命令を受け、原告に問題の著作権全体を原始的に帰属させることを当然の前提にして当該問題の作成に当たっているものと認められ、各講師も「法人等の業務に従事する者」に該当するものと解される。

(4) そして、原告問題が右のような過程を経て作成される以上、各原案執筆者は、自己に与えられた職務として各問題の原案を作成したものと認められる。

(三)  最後に、《証拠略》によれば、原告問題の各頁の末尾欄外には、太字で「四谷大塚進学教室」との表示がされていることが認められる。これは、当時の原告の商号が「有限会社四谷大塚進学教室」であることを考慮すれば、右表示があることをもって、原告が原告問題を「自己の著作の名義の下に公表」したものと解するのが相当である。右「四谷大塚進学教室」との表示を、進学研究社が主催する日曜教室の名称として広く一般に知られている名称を表示したものと解する余地もあるが、そうだとしても、前記一に認定した進学研究社と原告との関係に照らせば、「四谷大塚進学教室」との表示は、子会社である原告と進学研究社の企業結合の表示と見るのが相当であり、これをもって原告の著作の名義の下に公表したものと解することに支障はない。

また、本件においては、原告と原案執筆者との間に著作権の帰属についての別段の定めがあったことを窺わせる証拠はない。

以上の事実に鑑みると、編集著作物である原告問題の著作権は原告に原始的に帰属していたものと認められる。

3  被告は、原告が原案執筆者に問題の作成を依頼するのは、いわば「外注」に過ぎない旨主張するが、ある著作物の作成を委任ないし請け負わせた場合に当該受任者ないし請負人が「法人等の業務に従事する者」に該当しない場合が多いのは、当該受任者ないし請負人は、著作物の創作に関して委任者ないし注文者から独立した地位に立ち、自己の裁量によって創作活動をしたものと認められる場合が多いからであって、前記のような原告問題の作成過程に照らせば、本件においては、単に「外注」であることを理由に原案執筆者の職務従事性を否定することはできない。

なお被告は、問題の原案は原告において改変されることなく、せいぜい誤記誤答が訂正されて印刷に回される旨主張し、それに沿う乙第八七号証を提出するが、仮に原案執筆者の中の一人についてこのような事実があったとしても、それは当該原案が原告の策定する問題作成指針に合致し、手直しの必要性がなかったということを示すに留まり、原告と原案執筆者間の指揮命令関係を否定する証拠とはなり得ず、被告の主張は採用できない。

四  被告の侵害行為(原告問題と被告問題との対比)

1  被告が、被告問題を含む「四進レクチャー」を作成してこれを通信販売したことは当事者間に争いはなく、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 別紙対照表の理科の番号58の問題については、被告問題に対応する原告問題として「シリーズ④第4回6年理科Cコース」との表示がなされているが、原告問題として書証として提出されている甲第一九六号証はAコース及びBコースであり、被告問題は右いずれの原告問題とも異なっており、Cコースの原告問題の内容を認めるに足りる証拠はないから、原告問題と被告問題の同一性は認められない。

(二) 次に、右(一)の被告問題及び後記(三)に掲げる被告問題(同一の出題範囲におけるコース別の問題を組み合わせた問題及び合不合判定テスト問題の男子用と女子用の問題を組み合わせたもの)を除くその余の被告問題は、実質的に同一である。両者を対比すると、被告問題には、問題文における指示の仕方、図形表記の仕方、選択肢の配列順序及び統計資料の年度(被告問題が掲載された「四進レクチャー」の出版年度に由来するものである。)等に関し、別紙対照表の該当番号に対応する原告問題と若干の相違が見受けられるものもあるが、それらのものも、問題として与えられた数式、前提事項はもとより、求められる解答や問題冒頭の題目までほぼ完全に一致しており、原告問題における素材としての問題の選択と配列に関する創作性がそのまま再現されているものということができる(なお、別紙対照表中の理科の12ないし14、44、48、49及び51の「原告テスト問題該当部分」欄では、いずれもAコース問題とBコース問題が掲記されているところ、両問題の設問1あるいは設問1及び2は共通問題であり、これらに対応する被告問題は結局のところBコース問題と同一に帰するから、当該被告問題は右原告問題のうちのBコース問題と同一であると認められる。)。

(三) 被告問題の中には、別紙組合せ問題一覧表のとおり、別紙対照表で対応する原告問題の同一の出題範囲におけるコース別問題を組み合わせたり、男女別の問題を組み合わせたりして作成されているものがある。

(1) このうち、コース別問題を組み合わせた被告問題(算数の41ないし44、46ないし53、56ないし64、66及び68)については、各コースの共通問題を原告問題の設問の順序のまま冒頭に掲げてその旨付記するとともに、各コースで異なる問題については、原告問題における設問の順序のままコース別にまとめて掲載しており、このような掲載の仕方は、単に紙幅を節約して両コースの問題をともに掲載したものと認められるのであるから、被告問題は、各該当コース問題をそれぞれ再現したものと認められる(なお、被告問題の各設問が原告問題のそれとほぼ完全に一致していることは前記(二)と同様である。)。

(2) 次に、被告問題のうち、原告の合不合判定テスト問題の男子用と女子用の問題を組み合わせた問題の態様は、別紙組合せ問題一覧表の「組合せ内容」欄記載(前記コース別問題を組み合わせた算数の41ないし44、46ないし53、56ないし64、66及び68を除く。)のとおりであるが、原告問題の一方と被告問題を対比すれば、選択された問題の同一性の程度は、前記(二)に比べ半減しているものと評価できる被告問題も多い。

しかしながら、設問の取捨選択の対象となった原告問題(合不合判定テスト問題)は、いずれについても同じ日に実施されたものであるとともに、「合不合判定テスト」は、入試を間近に控えた時期に行われる入試予想問題あるいは日曜教室における指導の集大成というべき問題であるから、男子用問題と女子用問題はともに密接な関連を有しているものと認められる。そして、右一覧表の算数の65を例にとれば、被告問題の設問1及び2は原告の男子用問題の設問1及び2、被告問題設問3ないし7は原告の女子用問題の設問3ないし7というように、被告問題の設問の順序は対応する男子用問題あるいは女子用問題の設問の順序に従っており、設問の合計数も原告問題と同じとなっており、被告独自の観点から設問の順序を変更し構成し直したものではないから、合不合判定テスト問題の右特殊性をも併せ考慮すると、原告の男子用と女子用の問題を組み合わせた被告問題は、それぞれの問題の選択と配列に関する創作性を再生したものと認めるのが相当である(なお、国語問題の番号67については、男子用の問題は設問3のみであるから、被告問題は、原告の女子用問題と同一であると考える。また、被告問題の各設問が、対応する原告問題のそれとほぼ完全に一致していることは前記(二)と同様である。)。

2  そして、《証拠略》によれば、被告が発行している「四進レクチャー」に掲載された被告問題が、原告問題(日曜教室テスト問題)に依拠していることは明らかであり、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く被告問題は、同表で対応する各原告問題を複製したものであると認められる。

五  抗弁について

1  引用による利用の抗弁について

(一) 《証拠略》によれば、被告が発行している「四進レクチャー」は、原告問題を複製した被告問題とその解答及び解説並びに補充問題から構成されており、「四進レクチャー」の全頁の約半分を被告問題が占めていること、右解答、解説及び補充問題は、被告が独自に作成したものであること、以上の事実が認められる。また、《証拠略》によれば、「四進レクチャー」には、「四進生とその御父兄のために作成」、「四進カリキュラムに完全準拠」、「過去のBコース問題を素材」、「四進日曜テスト実施前の前々週水曜日に発送」といった宣伝文句が用いられており、「四進レクチャー」は、日曜教室を受講する会員を含む私立中学等への進学を希望する児童を対象とした自習教材であるとともに、日曜教室を受講する会員ないし受講を希望する児童を対象とした日曜教室受講のための対策用自習教材の性格をも有していることが認められる。

(二) ところで、著作権法三二条一項所定の引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で、自己の著作物中に他人の著作物の原則としてその一部を採録することをいい、引用に該当するためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される著作物と明瞭に区別して認識することができ、かつ右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係にあると認められることが必要であると解されるところ、被告が独自に作成した解説や補充問題を付して原告問題の難点あるいは不備を指摘している事実が仮にあるとしても、右のような「四進レクチャー」の性格からすれば、本件における被告による原告問題の利用は、テスト問題としての原告問題を「四進レクチャー」においても同様にテスト問題として使用しているとともに、「四進レクチャー」においては、右のとおり、原告問題を使用した学習教材であることが宣伝広告等の前面に出ており、原告問題を利用することにより自習教材としての信頼性を謳っているものと評価できるのであるから、原告問題の利用が、被告が主張する批評活動とは到底言い難い。

そして、被告が主張する原告問題部分と被告の独自作成部分の文字の総量割合を前提としても、このような「四進レクチャー」の性格あるいは使用目的からすれば、原告問題の利用がなければ教材としての存立を維持することができないと解されるのであるから、原告問題を利用した被告問題が「四進レクチャー」のその余の部分の従たる関係にあるものと認めることはできず、被告による原告問題の利用は、正当な目的による引用に該当するものとは認めがたい。

したがって、被告の主張は採用できない。

2  黙示の承諾について

《証拠略》によれば、被告は、昭和五九年一二月に「四進レクチャー」の販売を開始したが、昭和六一年二月二六日ころ、原告から被告に対し、「四進レクチャー」と日曜教室テスト問題の過去の問題との整合の度合いについて照会がされ、被告はこれに回答したこと、その後昭和六二年に至り原告の従業員が被告を訪れて「四進レクチャー」を買い求めるとともに、同年六月二九日付け内容証明郵便で、原告は被告に対し、著作権の侵害を理由として「四進レクチャー」の製作と販売の中止を申し入れたこと、被告は、昭和六二年七月六日付け内容証明郵便で、被告の行為は著作権を侵害するものではない旨等を回答していること、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、原告は、「四進レクチャー」の販売開始から一年ほど経過した頃に「四進レクチャー」が原告問題の著作権を侵害しているのではないかとの疑念を抱くに至ったことが窺われ、その後も販売中止の申し入れを行っているのであるから、被告に対する右照会状の送付と内容証明郵便の送付の間に一年余の期間があるとしても、それは被告に対する対応を検討していたものとも考えられ、被告が主張するような黙示の承諾を窺わせる事実とは認めがたい。

よって、この点に関する被告の主張も採用できない。

六  差止請求について

1(一)  被告の抗弁はいずれも理由がなく、被告が「四進レクチャー」において被告問題(但し、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く。)を印刷したことは、編集著作物としての原告問題について原告が有する複製権を侵害するものであると認められるから、原告の著作権法一一二条一項に基づく被告問題の印刷の差止請求は理由がある。

(二)  著作権侵害を真剣に争っている者が、著作権法一一三号一項二号所定の「著作権……を侵害する行為によって作成された物」であるとの「情を知る」とは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であるとの結論に直結する判断が示されたことを知れば足りるものと解するのが相当である。

本件口頭弁論終結時においては、被告問題が原告の著作権を侵害する行為によって作成された物であることを被告が知っていたことを認めるに足りる証拠はないが、本件判決は言渡しの後、被告又は被告の訴訟代理人に送達されるのであるから、遅くとも本判決が被告又は被告代理人に送達された時に、被告は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く被告問題が原告の著作権を侵害する行為によって作成されたものであるとの情を知るものと認められる。したがって、右時点では、原告は被告に対し、著作権法一一三条一項二号、一一二条一項に基づき、印刷した別紙対照表の理科の番号58の問題を除く被告問題の販売等の領布行為の差止めをも求めることができる。そして、本判決は、言渡し後間もなく被告又は被告代理人に必ず送達されるものであるのに対し、被告問題が原告の著作権を侵害することを争う被告の態度に照らせば、被告問題の販売等の頒布行為の差止めを求める原告の請求は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く被告問題につき、本判決が被告又は被告代理人に送達される日以後の限度で、その請求の利益及び理由がある。

被告問題の印刷販売頒布を求める請求中、右に理由があるとした部分を超える部分は理由がない。

2  訴え変更前の旧請求についても、原告問題が編集著作物として著作物性を有し、被告主張の抗弁は理由がないこと、被告は現に原告問題を複製した被告問題を印刷し、販売頒布していることは既に認定判断したとおりであり、被告は、その取下げに同意することを拒否し、原告問題の著作物性を争うとともに、引用による利用との主張及び原告から黙示の承諾を得たとの主張を行っているものであり、このような被告の本件訴訟における態度によれば、被告が原告問題を別紙対照表の理科の番号58を含めてこれを印刷して複製し、これを販売等頒布して利用するおそれがあるものと認められるから、旧請求は、原告問題の印刷こ差止め並びに原告問題を印刷した物のうち本判決が被告又は被告代理人に送達された日以後の販売頒布の差止めの限度で理由があるが、これを超える部分は理由がない。

七  原告の損害ないし損失について

1  前記四のとおり、被告は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く原告問題をほぼそのまま、あるいは設問を組み替えて「四進レクチャー」の問題に利用したところ、本件全証拠によっても、被告が右のような事実関係を説明して弁護士等の専門家に相談する等して、自社の行為が原告の著作権を侵害するか否かの調査・検討を行ったとの事実は認められないから、少なくとも過失により原告の著作権を侵害したものと認められ、民法七〇九条に基づき、被告は原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

また、前記五2のとおり、被告は原告の承諾を得ることなく、右理科の問題を除く原告が著作権を有する原告問題を利用しており、これらの原告問題は編集著作物としての財産的価値を有するのであるから、被告はこのような原告問題の利用によって法律上の原因なく利益を得ていると認められ、原告の損失と因果関係にある被告の利得については、不当利得としてこれを原告に返還すべき義務がある。

2  そこで、原告の蒙った損害額又は損失額を検討する。

(一) 《証拠略》によれば、

(1) 本件で問題となった原告問題が日曜教室で使用されたのは、昭和五八年一月から同六〇年二月までの期間であるが、原告問題を利用した「四進レクチャー」には、「四進レクチャー85」ないし「四進レクチャー87」との表示がなされ、これらの「四進レクチャー」は昭和六〇年二月から同六三年一月までの期間に販売されたものと推測されること、

(2) 右期間において、被告は、四教科の被告問題の入った「四進レクチャー」六九週分を少なくとも二〇〇名に一週間分一部当たり二〇〇〇円で販売したこと、

(3) 原告は、昭和六一年から、前年度に実施した日曜教室テスト問題を集め、二年間の指導期間を四つのシリーズに分けた「前年度問題集」の発行を開始し、昭和六一年及び昭和六二年に発行した問題集は、四谷大塚進学教室に在籍する児童を対象に無料で配布していたが、翌六三年からは、提携塾に対し、四教科一シリーズ分の問題集を四〇〇〇円(一教科一〇〇〇円)で販売するようになったこと、

(4) 「前年度問題集」の一シリーズでは、それぞれ二〇週分の問題が掲載されていること、

以上の事実が認められる。

(二) 原告は、被告の販売利益が原告の損害額ないし損失額であると主張する。

著作権法一一四条一項は、侵害者の得た利益をもって損害額と推定する旨規定するところ、同項は、不法行為による損害賠償額の立証が困難であることに鑑み、その立証の困難性を救済して著作権者の保護を図ったものと解されるが、同項は、加害者の侵害行為と相当因果関係に立つ損害の存在を前提としているのであって、著作権侵害行為があれば直ちに侵害者の得た利益を損害額と認める趣旨を規定したものとは解されない。

本件では、右に見たとおり、本件で問題となった「四進レクチャー」が販売された時期には原告は「前年度問題集」を市販しておらず、また、被告が複製した原告問題は、昭和五八年度及び同五九年度に実施された問題であるから、被告の行為によって原告が発行する「前年度問題集」の販売量が減少し、あるいは増えるべき発行数が増加しなかったとの関係は見い出せないし、他に被告の行為によって原告の得べかりし利益が失われたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、損害額又は損失額について主位的主張は認められない。

(三) 原告の蒙った損害額又は損失額についての予備的請求1として原告が主張する一教科一回分の問題用紙二〇〇円との金額は、進学研究社の主宰する日曜教室におけるテストの実施と同時期に提携塾が実施するテスト用の問題として、進学研究社が提携塾に販売する場合の価格であるから、テスト実施後の原告問題の利用の対価と同一に論ずることはできず、右金額を前提とする原告の予備的請求1は採用できない。

(四) 原告の蒙った損害額又は損失額についての予備的請求2の主張は、右(二)と同様、原告が実際に販売していない昭和六一年度実施問題集の販売を前提としており、採用できない。

(五) 日曜教室でのテスト実施後の原告問題の通常の利用の対価を検討する。

(1) 前記五1のとおり、「四進レクチャー」が、進学研究社の主宰する日曜教室テストの事前の対策用教材であるとの性格を有しているとともに、日曜教室テスト問題に準拠していることを宣伝の前面に押し立てていることに鑑みると、「四進レクチャー」の構成部分に被告が独自に作成した解説や補充問題等が含まれているとしても、「四進レクチャー」は、いわば原告問題あっての「四進レクチャー」と評価することができるものであること、また、流通経費等もさして要するものとは認められないから、結局、印刷・製本費用がコストのほとんどを占めるものと解され、その利益率は通常の出版物よりも高いと見られることからすれば、原告問題を利用するについての通常の対価は、「四進レクチャー」の販売価格(売上高)の一〇パーセントと解するのが相当である。

もっとも、前記のとおり、別紙対照表の理科の番号58については被告による著作権の侵害が認められないから、場合を分けて検討する。

① 「四進レクチャー」が一部二〇〇〇円で販売されていたことは前記のとおりであり、一部当たりの一教科の販売価格は五〇〇円に相当するから、理科を除く三教科に関しては、被告は、六九週分を少なくとも二〇〇名に販売しており、この部分の使用の対価は、次式のとおり二〇七万円となる。

一五〇〇円×六九週×二〇〇名×〇・一=二〇七万円

② 理科については、次式のとおり六八万円となる。

五〇〇円×六八週×二〇〇名×〇・一=六八万円

(2) 従って、右①②を合計した二七五万円が、原告問題を利用するについての通常の対価と認められ、原告が蒙った損害と認められる。

(六) なお、本件において被告に不当利得が成立するとしても、右(五)に認定した二七五万円を超える損失が原告に生じたことを認めるに足りる証拠はない。

3  よって、原告の金銭請求は、複製権侵害の不法行為による損害金二七五万円及びこれに対する不法行為の日以後である昭和六三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、これを超える部分は理由がない。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例